週刊・編集者コラム|2026/09/21〜09/27

敬老の日、秋分、中秋節、清掃の日、台風の日、世界観光の日。暦の節目を起点に、老い、移動、食料、ごみ、月、防災、観光を見つめた7日間でした。ここでは各日の編集者コラムを、文体と段落を変えずに全文再録します。ニュースの速さから少し離れ、暮らしの手触りと、その奥にある制度を週末に読み返すためのアーカイブです。

今週の編集者コラム一覧

日付 配信タイトル 編集者コラムの主題
09/21老いを敬う言葉、老いを疎まない社会老いをめぐる言葉と、社会のまなざし
09/22秋分前夜に考える「移動」の自由と拘束の均衡休日と移動、自由を支える余白
09/23「一点突破」の弁当、「豊作」の国の視線食料自給と、豊かさを支える足元
09/24「これは何のごみ?」に国境はないごみ分別と言葉に翻訳する情報設計
09/25食卓の月、看板の太陽に見る縁起学月と太陽に託してきた味覚と商売の縁起
09/26隠した昔、盛る現在――「台風の日」に考える日本の「防災力」災害の記憶と、広報より先にある備え
09/27中国ホクホク、日本モヤモヤ?「観光の日」に考えるインバウンドの現在地日中の人流から見直す観光の現在地

各日の編集者コラム

2026年9月21日

老いを敬う言葉、老いを疎まない社会

9月21日は、世界アルツハイマーデーと敬老の日が重なる、なかなか含蓄のある一日である。本来なら、高齢者への感謝と労りに思いを寄せる日なのだろう。ところが今の日本では、その趣旨を手放しで喜びにくい空気も漂っている。

高額療養費制度では自己負担をめぐる見直しが続き、長生きすればするほど医療費への不安が重くのしかかる。長寿を寿ぐはずの祝日に、老後の財布を案じなければならないとすれば、何とも皮肉な話である。

さらに厄介なのは、若者の負担と高齢者の社会保障を天秤にかけ、「若者対高齢者」という分かりやすい対立構図に仕立てる言説が目立つことだ。本来なら制度設計や財源配分の問題であるはずなのに、いつの間にか世代同士の損得勘定へと置き換えられてしまう。

映画『PLAN 75』は、75歳以上の人々に生死の選択を促す制度が導入された近未来の日本を描いた作品である。もちろんフィクションだ。しかし、社会保障をめぐる議論を眺めていると、ときにその設定がまるきり荒唐無稽とも思えなくなる。フィクションに現実が追いつく速度は、案外速い。

その一方で、言葉の世界だけを見れば、社会はずいぶん「優しく」なった。

かつて使われていた「老人性痴呆症」という呼称は「認知症」へ改められた。人種や性別、障害、身体的特徴などにかかわる表現も、差別や偏見につながりかねないとして次々に見直されてきた。放送や出版の現場でも表現への配慮は細かくなり、「言葉狩り」という反発が生まれるほど、言葉の角を丸める努力が重ねられている。

中国でも事情は似ている。かつての「老人性痴呆症(lǎorén chīdāizhèng)」や、認知機能の衰えを揶揄するような「老糊涂(lǎo hútu)」といった言い回しは、少なくとも公的・医療的な場面では避けられる方向にある。

ところが面白いのは、中国語ではそれとは別に、「老」という字そのものが実に堂々と日常生活に居座っていることである。

「老師」は先生であり、「老婆」は妻への親しみを込めた呼び方である。「老朋友」といえば昔からの友人だし、「以老带新(yǐ lǎo dài xīn)」といえば、経験豊かな者が若手を導くことを指す。「老」が付いたからといって、必ずしも衰えや古さを意味するわけではない。むしろ経験、親しみ、信頼といったニュアンスをまとわせることさえある。

そんなことを考えていると、大学時代の記憶が蘇る。

当時、街角でよくモルモン教、現在の末日聖徒イエス・キリスト教会の若い宣教師たちに声を掛けられた。まだ二十歳そこそこにしか見えない青年たちが、教会では「長老」と呼ばれていると知り、妙に感心した覚えがある。

二十歳で「長老」。

考えてみれば、これほどアンチエイジングとは縁遠い肩書もない。宗教という世界は、年齢を示すはずの言葉を、権威や敬意を表す記号へと自在に変えてしまうらしい。

そう考えると、日本で「老」という一字が真正面から敬意をもって扱われる場所は、宗教の世界くらいしか残っていないのではないか、とさえ思えてくる。

世俗の世界には「アンチエイジング」という言葉があふれている。白髪は染め、しわは消し、老いはできるだけ見えなくする。「老いること」は人生の自然な過程であるはずなのに、いつの間にか、隠すもの、言い換えるもの、そして時には社会の負担として語られるものになった。

言葉だけを優しくしても、社会まで優しくなるとは限らない。

せめて敬老の日くらいは、「老」という字から目をそらさず、年を重ねることそのものを、もう少し堂々と寿ぐ一日であってほしいものである。(耕雲)


2026年9月22日

秋分前夜に考える「移動」の自由と拘束の均衡

9月22日は「世界カーフリーデー(World Car-Free Day)」。自家用車の利用を控え、徒歩・自転車・公共交通機関などで移動しながら、都市のあり方を考える日といってよい。欧州では「モビリティ・ウィーク」の最終日でもある。

日本の公共交通は正確さ・安全性で世界屈指だが、移動の選択肢やコストという観点から見ると、必ずしも自由度が高いとは言い切れないかも知れない。公共バスを例にとると、都営バスは210円だが、民営各社は2024年以降、均一220円から240円への値上げが相次いだ。対して中国は1〜2元(約20〜40円)であり、しかも距離が長くなっても均一制がとられているケースが多い。

目的地までの「ラストワンマイル」を解決する交通手段として、シェアサイクルは重宝するが、上海ではすでに100万台を超える車両が稼働し、1日277万回利用されている。しかも、その32.5%が地下鉄駅から200メートル圏内で発着するといわれる(上海市交通委、7月発表)。日本はシェアサイクルの普及が道半ばなだけでなく、今年4月から青切符制度が始まった。安全確保は配慮されなければならないが、「守るべきこと」が増える感覚は行動の制約につながっていく。

地方の交通インフラも課題がある。鉄道の廃線、バスの減便・廃止が相次ぎ、国交省認定の「交通空白」地区は2,740。この1年で683も増えた。高齢者には自動車免許の返納が促されるが、代替の足がなければ返納は生活圏の縮小に直結する。

中国は2025年の自動車販売が3440万台で17年連続世界一。それでいて車を使わない選択肢も厚い。高速鉄道は5万400キロへ拡大し、地下鉄・バス・シェアサイクルが重層的に街を覆う。もちろん地下鉄駅で見られる手荷物検査のように日本で見ることがないルールも存在する。しかし、秩序のための拘束と、移動の自由度・選択肢の確保との間で、均衡を図る工夫が施されている印象を受ける。

そして明日23日は秋分。太陽が秋分点を通過するのは午前9時6分、昼と夜がほぼ等しくなる節目である。昼と夜のどちらかだけでは一日は成り立たないように、交通にも「拘束」と「自由」の両方が要る。問うべきは、その拘束と引き換えに社会がどれだけの選択肢を用意しているかだ。(耕雲)


2026年9月23日

「一点突破」の弁当、「豊作」の国の視線

1980年代、筆者が大学生だった頃、キャンパス界隈のコンビニで「大学弁当」あるいは「学生天丼」を買ったことがある。ごはんに天かすをトッピングし、天つゆをかけただけのもので、たしか価格は180円だっただろうか。おにぎり2つ買うよりもコスパ感は優れていたかもしれない。もちろん、栄養バランスを論じるような代物ではない。

そんな記憶を三十数年ぶりに思い出させる商品が現れたことをネットで知った。ローソンが9月22日から始めた「一点突破すぎ!」シリーズで、塩辛い鮭「ぼだっこ」だけを添えた弁当が297円で登場した。そして29日には、ご飯の上を焼きとうもろこしだけで覆った弁当が同額で発売される予定だという。

盛り付け工程や容器を簡素化し、具材を一種類に絞るというコンセプトと伝えられているが、この「とうもろこし弁当」の写真は中国のネットユーザーの目にも留まり、「消費のダウングレード」の極みとして、憐憫の情さえ込めたコメントも見られるようだ。

中国で暮らしていると、その反応も分からなくはない。もともと中国においてとうもろこしは安価な穀物の代表格である。スーパーで売られるデルモンテなど輸入ブランド品は別として、ネット通販で購入すれば300円(15元)ほどで10人前は優に賄えるだろう。中国における農産物、とりわけ穀物の供給力は高い。中国政府系資料によれば、2025年の穀物自給率は95%以上、コメや小麦など主食用穀物は100%以上とされている。かたや日本の2025年度のカロリーベース食料自給率は37%。前年度から1ポイント下がり、過去最低水準となった。中国の人口が日本の11倍強であることを思うと、両国の差はあまりに大きい。

自給率の高いはずのコメでさえ、価格高騰を背景に2025年の民間貿易による輸入量が9万6834トンまで急増した。気がかりなのは、生じゃがいもの動向だ。米国は日本に一般流通用の生鮮ばれいしょの輸入解禁を求めており、農林水産省は現在、病害虫リスクを含む植物検疫上の協議を進めている。食料安全保障と植物防疫という視点に立つと、リスクは高まるばかりだ。

9月23日は秋分の日である。日本の祝日法では「祖先をうやまい、なくなった人々をしのぶ」日とされる。一方、中国では同じ秋分の日が「中国農民豊収節(中国农民丰收节)」となっている。2018年に創設され、2026年は第9回。農業の豊作を祝い、農民の貢献を称え、農村文化を振興することを主旨にしているという。

「列島を強く豊かに」という言葉が頭をよぎった。「飽食」を豊かさの象徴というつもりはない。だが、必要な食料を自国でつくる力があり、それを普通の人が無理なく買えてこそ、はじめて強さや豊かさを論じることができるのではないだろうか。足元にある田畑と、生産者と、毎日の食卓が痩せていく一方で、「高成長」を続ける防衛予算と内閣広報予算の数字が気になった。(耕雲)

参考資料: ローソン「具材1種類で価格を最大5割抑えた『一点突破すぎ!』商品」 (https://www.lawson.co.jp/company/news/detail/1532188_2504.html) 中国国家統計局「十四五経済社会発展成果報告」 (https://www.stats.gov.cn/sj/sjjd/202606/t20260602_1963864.html) 農林水産省「令和7年度食料自給率」 (https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/260807.html) 農林水産省「コメの民間輸入について」 (https://www.maff.go.jp/j/press-conf/260203.html) 農林水産省「米国産一般流通用生鮮ばれいしょの検疫協議」 (https://www.maff.go.jp/j/syouan/bareisyo.html) 中国農業農村部「2026年中国農民豊収節」 (https://nmfsj.moa.gov.cn/xwzx_25646/ywjj/202608/t20260804_6486433.htm)


2026年9月24日

「これは何のごみ?」に国境はない

9月24日は「清掃の日」。1971年のこの日、廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)が施行された。今年はちょうど、敬老の日から秋分の日まで続いた5連休が明けた初日にあたる。連休明けに「ごみ」を考えるというのも、妙に生活感があっていい。

中国で長く暮らす身として、いつか日本の生活を本格的に「復元」する日が来たら、まず戸惑いそうなのがごみの分別だ。可燃、不燃、資源、プラスチック……曜日ごとに出せるごみが決まり、粗大ごみは申込制。外出先ではごみ箱を探すのにも一苦労する。

しかも日本のごみルールは全国共通ではない。一般廃棄物の処理は市町村の所管だからだ。東京・新宿区は「燃やすごみ」、名古屋市は「可燃ごみ」、大阪市は「普通ごみ」と呼ぶ。プラスチックの新分類名も、新宿区は「資源プラスチック」、名古屋・大阪はそろって「プラスチック資源」と、語順まで自治体ごとに微妙に違う。引っ越すたびに、頭の中の「ごみ辞書」を書き換える羽目になる。

実はこの「名称のローカル化」は中国にもある。象徴的な例が上海だ。2019年7月施行の生活ごみ分類条例は「可回収物」(資源ごみ・リサイクル可能物)、「有害垃圾」(有害ごみ)、「湿垃圾」(生ごみ・生分解しやすいごみ)、「干垃圾」(その他ごみ・乾いたごみ)の4分類を採用したが、同年末に定まった国家標準では「厨余垃圾(生ごみ・調理くず)」「其他垃圾(その他のごみ)」という呼び方に整理された。だが、上海は今も独自の「湿・干」を使い続けている。

当時多くの市民を悩ませたのが「湿垃圾」の「湿」だ。水に濡れたかどうかではなく、生分解しやすいかどうかを指すのだが、直感的には分かりにくい。そこでネットで一気に広まったのが、人気アニメ『ペッパピッグ』に例えた「豚式分類法」――豚が食べるものは湿垃圾、食べたがらないものは干垃圾、食べたら危ないものは有害垃圾、売れば豚が買えるものは可回収物、というものだ。複雑な制度を一瞬で腑に落とす、なかなかの“編集”だった。もっとも実際の分類は、魚の小骨や花枝も湿垃圾に入るなど、「豚基準」だけでは説明しきれない。

上海の地下鉄構内では、条例施行後「総量を減らし、精密に配置する」という方針でごみ箱自体が減らされた。理由は違えど、「外で気軽に捨てにくくなる」点は日本と妙に似ている。

だとすれば、制度を説明するだけでなく、もっと「覚えたくなる伝え方」を工夫してもいいのではないか。「ペッパピッグ」に頼った2019年の上海のように、いっそのこと「ちいかわ」に登場してもらい、親しみやすいキャラクターで地域ごとの分別を伝える仕組みがあれば面白い。

東京から大阪へ、上海から北京へ――生活者が最初につまずくのは、案外こうした小さなローカルルールだ。ごみの分別は環境政策であると同時に、複雑な制度をどう生活者の言葉に翻訳するかという、情報設計の問題でもある。清掃の日には、ごみ箱の中身だけでなく、ルールの「伝え方」も一度整理してみたい。(耕雲)

参考資料: 環境省「廃棄物処理法」 (https://www.env.go.jp/recycle/waste/laws.html) 環境省「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和6年度)」 (https://www.env.go.jp/press/press_03502.html) 上海市人民政府「上海市“無廃城市”建設工作方案」 (https://www.shanghai.gov.cn/zxsjsj/20250606/f26037c0959a4c70b9e2541aebd9ad1b.html) 上海市人民政府「上海市城市生活垃圾収運処置管理弁法」 (https://www.shanghai.gov.cn/xxzfgzwj/20210608/1578fa25c50145a584ac0d7e0effc192.html)


2026年9月25日

食卓の月、看板の太陽に見る縁起学

日本のシルバーウィーク5連休が明けたと思ったら、今度は中国が中秋節の3連休に入った。本日9月25日から27日までが休みで、そのわずか3営業日後には、10月1日から7日までの国慶節「ゴールデンウィーク」が控える。9月28~30日に年休を取れば、9月25日から10月7日まで13連休にもなる。休暇から休暇へ。9月末の東アジアは、休日のバトンリレーのようである。

中秋節といえば、やはり月餅だ。

この時季、中国のネットで毎年のように盛り上がるのが、「甜党(甘党)」か「咸党(塩辛党)」かという味覚論争である。ただ、これを単純な南北対決と考えると少々乱暴だ。広東式には蓮の実餡や塩漬け卵黄を使ったものがあり、蘇式には豚肉入りの鮮肉月餅、雲南にはハムを使った甘じょっぱい雲腿月餅がある。一口に月餅といっても、土地が変われば皮も餡も味も変わる。月餅とは、各地の味覚を丸い皮の中に包み込んだ郷土食の集合体、と考えたほうが近い。

日本のお月見団子も全国一律ではない。関東では白く丸い団子を満月に見立てるのが一般的だが、関西の一部では里芋のような形の団子にあんを巻く。静岡には中央をくぼませた「へそ餅」もある。

雑煮の餅や出汁の違いでもそうだが、日本ではしばしば「東西」、中国では「南北」という構図で食文化が語られる。さらに面白いのが方角の定番の並べ方で、中国語は「東南西北」、日本語は「東西南北」。同じ四方位なのに、口にすると進む方向が違う。

さて、食べ物を月に見立てる例は多いが、太陽はどうだろう。

日本では、そばやうどんに卵を落とせば「月見」になる。黄色い黄身を満月に見立てるわけだ。対して中国語では目玉焼きを「太阳蛋(タイヤンダン)」と呼ぶことがあり、台湾・台中には、丸く平たい黄金色の焼き菓子「太陽餅(タイヤンピン)」もある。

とはいえ、食品の形を天体になぞらえた例を拾ってみると、月のほうが断然バリエーションに富んでいる。理由は単純で、月には満月、半月、三日月という複数の「型」があるからだろう。丸ければ月餅や月見団子、弧を描けばクロワッサン、韓国のソンピョン、半月形の餃子や菓子になる。月は欠けるからこそ、食べ物になりやすい。

ところが、食卓を離れて企業や組織のシンボルを眺めると、今度は太陽が目につく。

食品関係でなじみ深いところでは、山崎製パンの「太陽マーク」がある。同社がシンボルマークとして使用を始めたのは1966年。パンの形を示したものではなく、文字通り太陽を図案化したマークである。

明るさ、温かさ、成長、未来――なるほど企業が掲げたい言葉と太陽は相性がよい。

では、月はどうか。

花王の月マークには、実に日本的ともいえる縁起担ぎが隠れている。1890年に生まれた月の顔はもともと右向きだったが、1943年に左向きへ変更された。「これから満ちていく月のほうが縁起がよい」という考えからだったという。企業の成長を、月の満ち欠けに託したのである。

さらに上をいく縁起担ぎが、かつてのプロ野球界にあった。

1947年、「太陽ロビンス」という球団が誕生した。ところが、なかなか勝てない。そこで翌1948年、「太陽」の「太」から点を一つ取り去り、「大陽ロビンス」に改称した。「点を取る」球団になってほしい――そんな願掛けだったと、球団を運営した田村駒の社史に残っている。

月は満ちてほしい。野球では点を取ってほしい。太陽には明るい未来を託したい。

天体そのものは黙って空に浮かんでいるだけなのに、人間はそこへ味覚から商売、勝負運まで、実にさまざまな意味を重ねてきた。

そう考えていたら、最近話題のローソン「一点突破すぎ!」弁当を思い出した。すでにソーセージや塩鮭一品に絞った商品が登場し、9月29日には、ご飯の上を焼とうもろこしだけで覆った弁当まで発売される予定だ。

「太陽」から点を取った球団があったかと思えば、こちらは文字通り「一点突破」である。

このまま突き詰めれば、究極の一点突破は、ご飯の真ん中に梅干しを一粒置くだけの「日の丸弁当」かもしれない。ただ、今年は、人前で国旗を意図的に傷つけたり汚したりする行為を罰する新法が国会で可決・成立したばかり。国旗を連想させる名称はさすがに避けようと思ったら、梅干しの「一点突破」も「月見弁当」とでも呼んだほうが無難だろうか。

今日は中秋節。空に浮かべれば月、皿に載せればごちそうになる。人間とは、つくづく天体をおいしく食べる生き物らしい。(耕雲)


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2026年9月26日

隠した昔、盛る現在――「台風の日」に考える日本の「防災力」

「防災大国」の看板と

9月26日は「台風の日」と呼ばれる。1954年の洞爺丸台風、1958年の狩野川台風、1959年の伊勢湾台風。日本の災害史に残るこれらの大災害が、奇しくもこの日を挟んで相次いだ。死者・行方不明者の数を見ると、洞爺丸台風は1,761人、狩野川台風は1,269人、伊勢湾台風は5,098人にのぼる。復興期に相次いだこれらの自然災害の経験は、その後の防災体制の強化や災害対応力の向上に生かされてきたと位置づけられている。

さて、72年後の2026年9月、日本は再び台風被害のただ中にある。台風25号によって千葉県各地で浸水や土砂災害が発生し、県内では15市8町1村の計24市町村に新たに災害救助法が適用され、東京都でも1町が対象となった。これとは別に、8月の記録的な大雨で既に法適用されていた21市4町・計25市町でも、台風25号による被害を受けて継続的な救助が必要とされている。災害から立ち直りきる前に次の災害が重なる「複合的な復旧」が、いまの千葉の現実だ。

さらに考えさせられる光景がある。たとえば千葉県市原市の災害ボランティアセンターでは、家屋の片付けや泥かきだけでなく、敷地に流入した土砂の撤去について「重機を活用した専門ボランティア」による支援の相談を受け付けており、9月26日からは募集範囲を市内から全国へと広げた。被災地の復旧能力を、行政ではなく民間の善意で補わなければならない現実は、「公助の即応力がどこまで届いているのか」という問いを投げかける。

このことに疑義を呈する声はネット空間にも少なくない。そこでしばしば引き合いに出されるのが、2023年5月のイタリアだ。広島G7サミットに参加していたジョルジャ・メローニ首相は、北東部エミリア・ロマーニャ州の大洪水を受け、日程を予定より早く切り上げて帰国した。帰国後はそのまま被災地入りし、現場と対策本部を視察。2日後には閣議を開き、救援と初期復旧に20億ユーロを超える緊急措置を決めている。

高市早苗首相は、国連総会の一般討論演説で「日本は世界一の防災大国を目指しています」と述べ、2027年度の防災庁関連予算でも大幅な増額を概算要求している(652億円、今年度の約3倍)。しかし一方で、今年7月の熊本地震、8月の北陸豪雨に続き、千葉が被災するさなかに伝えられるのは、防衛予算の大幅増や、政府の「発信力強化」を掲げた破格の広報費の概算要求といったニュースだ。住民の身近な住宅の耐震・耐水化や、地域の避難所の更新といった地道な取り組みが、これらの派手な数字の陰で後回しになっているのではないかという印象を、拭いきれない。

時計の針を、「台風の日」に連なる災害の記憶からさらに戦中・戦後直後へと戻すと、なお注目すべきことがある。1944年の東南海地震では、授業中や勤務中だった学校・軍需工場を中心に1,200人を超える死者が出たほか、三重県や和歌山県の沿岸を襲った津波でも数百人が犠牲になった。さらに翌1945年、敗戦から1カ月あまり後の9月17日には枕崎台風が九州から東北にかけて日本列島を襲い、気象庁の記録では死者2,473人、行方不明者1,283人、合計3,756人が死亡・行方不明となった。

ところが当時、気象観測網は太平洋戦争の開戦とともに軍部の統制下に置かれ、台風のような緊急警報を除くほとんどの気象情報が機密扱いとされていた。天気予報は陸海軍にのみ提供され、市民への提供は打ち切られていたのである。終戦後もその情報統制の慣性はすぐには解けず、観測網や通信網も戦争で疲弊しきっていた。枕崎台風が上陸したのは、日本が降伏文書に調印する前後の混乱のさなかであり、多くの市民は事前の警報を受け取れないまま、被害の実態も知らされることのないまま、犠牲になったとされる。

その視点から見ると、内閣広報室の2027年度概算要求が約72億3,000万円となり、2026年度予算の約7億円から10倍超に膨らんだこと、また内閣府の政府広報関係費も前年度の約79億円から約280億円へと増額要求されていることには、複雑な感慨を抱かざるを得ない。政府は動画制作・発信体制や対外発信の強化が必要だと説明しているが、かつて『国防』の名のもとに行われたのは、自然災害の情報さえ国民の目から遠ざけることだった。いま巨費を投じて強めようとしている『発信力』とは、いったいどの分野の情報を指すのだろうか。地震や暴雨からの避難者が車中泊や体育館での生活を余儀なくされる現実を思えば、広報予算の増大が『世界一の防災大国』の実現にどれほど寄与するのか、その不安は拭い去れない

今日9月26日も、台風26号が沖縄に接近している。一方、台風そのものとは無縁の関東地方でも、秋雨前線の影響で警報級の大雨への警戒が呼びかけられている。「台風の日」は、単なる過去の事件・事故を示す記号にとどまらない。72年前の洞爺丸の惨事は、人々の安全を守るために船を変え、海峡を渡る交通のあり方を変え、やがて青函トンネルというインフラへとつながった。では、「世界一の防災大国」を目指すという号令は、被災地の重機不足やボランティア頼みの復旧の先に、具体的にどんなビジョンを描いているのだろうか。(耕雲)


2026年9月27日

中国ホクホク、日本モヤモヤ?「観光の日」に考えるインバウンドの現在地

日中の旅行市場は、実に興味深い対照を見せている。中国では外国人の入境が勢いを増している。上海市統計局によると、今年上半期に同市を訪れた「境外旅行者」は前年同期比27.8%増の531万4900人。このうち外国人は415万1500人で29.7%増だった。中国全体でも2025年の外国人入境は延べ3517万人に達している。査証免除の拡大やモバイル決済の利便性向上が、リピーターを含む幅広い層を引き寄せている。

一方の日本には減速の影が見える。上半期の訪日客数は前年比2.0%減の2108万人、8月単月では前年同月比9.6%減の310万人となった。ホテル運営大手・森トラストの試算では、2026年通年で4050万〜4200万人、前年比2〜5%減の見込みだという。

ここで見落としてはならないのが、この減速の直接の引き金である。2025年11月、高市早苗首相の「台湾有事」をめぐる国会答弁を受け、中国政府は自国民に訪日自粛を呼びかけた。この結果、中国人訪日客は上半期で前年比56.4%減の206万人という歴史的な落ち込みとなった。日本の訪日客数が5年ぶりに前年割れしたのは、何よりもまずこの外交的緊張が響いた結果であり、為替や観光地としての魅力うんぬんは、その先の話である。

ただし興味深いのは、その先の消費の中身だ。中国人客が半減する中でも、訪日外国人旅行消費額全体は上半期でほぼ横ばいを維持し、1人当たり旅行支出はむしろ四半期として過去最高(24万4457円)を更新した。客数の落ち込みを、他市場からの客の増加と単価の上昇が埋め合わせた形である。日本のインバウンドは「量」では苦戦しつつも、「質」では踏みとどまっていると言える。

そしてこの「量から質へ」という構図こそ、日中を貫く共通のテーマでもある。人民元高が進むにもかかわらず中国が客を増やし続けているのは、査証免除やモバイル決済の利便性、都市の隅々まで行き届いた丁寧なサービス――すなわち「体験価値」の質を磨いてきたからだ。為替安という「割引札」だけでは「ホクホク」とはならない。旅行者が入りやすく、移動しやすく、過ごしやすい環境をどこまで整えられるかという勝負に、日中双方が否応なく直面している段階にあるといえそうだ。

その意味で、現在開催中の愛知・名古屋アジア競技大会は考えさせられる材料を提供している。国際スポーツ大会は競技を見せるだけのイベントではない。世界から選手、関係者、メディアを迎え、開催地を知ってもらう巨大なショーケースでもある。ところが今大会では、宿泊や輸送をめぐる問題が報じられた。韓国男子バスケットボール代表では送迎バスが来ず練習を取りやめたケースがあり、一部の宿泊施設についても選手側から不満が相次いだ。複数の海外メディアがこうした混乱を報じた事実も軽くない。

日本語の「観光」という言葉は、中国の古典『易経』にある「観国之光――国の光を観る」に由来する。ここでいう「光」とは、美しい景色だけを指すのではない。文化、制度、風俗、そして人を迎え入れる社会そのものまで含め、その国が外からどう見えるかを意味していた。訪れた人に、どんな「光」を見せられる国なのか――。9月27日は世界観光の日。時代を隔て、国境を越えて循環し、互いに磨かれてきたこの概念を、いま改めて考えさせられる。(耕雲)

あとがき

今週の七篇を貫いたのは、数字や制度が生活の言葉へ翻訳される瞬間でした。老いをどう呼ぶか、ごみをどう分けるか、月や台風の記憶をどう受け渡すか、旅の流れをどの側から見るか。身近な言葉を丁寧にたどると、社会の設計と個人の感覚が交わる場所が見えてきます。

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