NHK連続テレビ小説『おしん』(1983〜84年)は、明治末期に山形の貧しい小作農に生まれた主人公が、7歳で米俵1俵と引き換えに奉公に出されるところから始まる。
凍てつく最上川を筏で下り、見ず知らずの家へ独り向かう幼い背中――あの場面は、放送から40年以上が経った今も、多くの人の記憶に刻まれている。平均視聴率52.6%、最高62.9%はいずれもテレビドラマ史上の最高記録であり、今なお破られていない。
経済的困窮、親による「やむを得ない」決断、そして子どもが労働力として当然視される社会構造——おしんが置かれた状況は、国際労働機関(ILO)が指摘する児童労働の発生要因とほぼ重なる。
貧困、家族の脆弱性、教育へのアクセスの欠如。「あの時代の話だ」と片付けるのは容易い。だが『おしん』は、外務省の公式記録でも確認できるだけで60を超える国・地域で放映され、イラン・イラク戦争下のイランでは放送時間になると街から人が消えたと語り継がれるほどの反響を呼んだ。この物語が「日本の過去」の情景にとどまらなかったからこそ、それほど遠い国々の視聴者が画面に自分たちの姿を重ねたのだろう。
ILOとユニセフが今年(2025年)発表した最新推計によれば、2024年時点で世界の児童労働者数は約1億3800万人。かつて掲げた「2025年までの根絶」目標は達成されなかった。2000年から2016年にかけての減少傾向は一時的に逆転し、コロナ禍を含む2016年から2020年の間に160万人規模の増加を記録した。その後は再び減少に転じたものの、現在のペースでは目標の達成に数十年を要すると試算されている。
おしんは、過酷な奉公の日々の中で文字と算術を覚え、人との縁をたぐり寄せながら、やがて自立への道を切り開いていった。それは、彼女の並外れた意志の強さと、ほんのわずかな出会いの幸運に支えられたものだった。
だが、本来なら子どもの人生は、個人の強さや偶然の善意だけに委ねられてはならない。
6月12日は「児童労働反対世界デー(World Day Against Child Labour)」。統計の数字の向こうに、あの冒頭、筏の上で小さく身を丸めていた少女の姿が、静かに透けて見える。