大規模AIとマルチモーダルが変える科学啓発

大規模AIと全モーダルが変える科学啓発
中国でこのほど、「大模型」が科学啓発の公式リストに加わった。「大模型」は「大規模言語モデル」より広い概念だ。折しもアント・グループのAIアプリ「霊光」が打ち出す全モーダル技術がAIとの付き合い方そのものを塗り替えつつある。
1|科学啓発キーワードに現れた「大規模AIモデル」
2025年の「十大科学啓発キーワード」(中国の全国科学啓発創作大会で選出される公式リスト)には、「大模型」という語が含まれている。具体的には、全国科学啓発月、科学者精神、大規模AIモデル(大模型)、低空経済、人型ロボット、インテリジェントエージェント、イノベーション文化、工業遺産、シーン・イノベーション、SF産業の10語である。
ここでいう「大模型」は、日本語でよく使われる「大規模言語モデル」より広い概念だ。中国側の解説では、言語モデルに加え、画像や動画を扱う視覚モデル、複数の形式を統合するマルチモーダルモデル、研究向けの科学計算モデルなどを含む「大規模AIモデル全体の総称」とされている。
従来、中国の科学啓発で前面に出ていたのは、全国的なキャンペーンや「科学者精神」、子ども向け教育のようなテーマだった。そこに、AIそのものを象徴するキーワードが公式に入ってきたことは、科学啓発が「AIを説明する場」から「AIを前提に設計される場」に変わりつつあることを示していると言える。
大規模AIモデルは、専門的な知識を「一般の人にも分かる形」に作り直すうえで強みを持つ。難解な理論や複雑なデータを、短い文章に要約し、図解や比較表、3Dアニメーションとして自動生成できる。知識の整理・要約・翻訳・可視化を一気通貫でこなせるため、科学啓発は単に情報を配るのではなく、「最初から理解しやすい形に変換してから届ける」フェーズに入りつつある。
2025年 中国の10大科学啓発キーワード
(中国の全国科学啓発創作大会選出)
- 1全国科学啓発月科学知識の普及と科学精神の育成を目的とした、全国的なキャンペーン活動。
- 2科学者精神愛国、奉献、革新、求実といった、科学研究者が持つべき精神と倫理。
- 3大規模AIモデル(大模型)言語、視覚、マルチモーダルなど、複数の形式を統合した次世代のAI基盤技術。
- 4低空経済ドローンや電動垂直離着陸機(eVTOL)など、低空域を活用した産業と経済活動。
- 5人型ロボット人間の形を模倣し、複雑な作業や環境での活動を目指すヒューマノイド技術。
- 6インテリジェントエージェント大規模AIモデルを基盤とし、自律的に目標達成のための行動を実行するAI。
- 7イノベーション文化科学技術の革新を奨励し、社会全体で創造性を尊重する風土。
- 8工業遺産歴史的・技術的価値を持つ古い工場や設備などを保存・活用する取り組み。
- 9シーン・イノベーション特定の利用シーンや生活環境に焦点を当てた、技術とサービスの統合的な革新。
- 10SF産業SF作品の創作、関連技術開発、テーマパークなど、SFを核とした文化・経済活動。
2|大模型は“AIインフラ”の総称になりつつある
大規模AIモデル(大模型)は、一つひとつのサービスではなく、「AI時代のインフラ」に近い位置づけになりつつある。実際、ChatGPTや中国発のDeepSeek、さらには企業向けの専用モデルなどが、研究活動やオフィスワーク、産業現場の意思決定に組み込まれ始めていると報じられている。
科学啓発の観点から見ると、大模型は二つの意味で重要だ。第一に、専門家だけがアクセスできていた知識を、一般向けに平文化する「変換装置」として機能すること。第二に、教材やコンテンツそのものを自動生成・更新できるため、「時代に遅れない教材」を維持しやすくなることである。
同じ科学啓発キーワードには、ドローンや電動垂直離着陸機を中心とした低空経済、ヒューマノイド型ロボット、AIエージェントを意味するインテリジェントエージェントなども並ぶ。これらはすべて、裏側で大規模AIモデルとデータインフラを必要とする領域であり、「大模型」を科学啓発キーワードに据えることは、その前提条件を明示したことにも等しい。
3|アプリ「霊光」が示す全モーダル体験
こうした大規模AIモデルの上に乗る「見え方のレイヤー」として急浮上しているのが、全モーダルなアプリケーションである。その代表例が、アント・グループが2025年11月18日に正式公開したAIアプリ「霊光/灵光(リングアン)」だ。
霊光は、テキストによる対話だけでなく、3Dモデル、音声や動画、図表、アニメーション、地図つきのルート案内など、多様な形式で回答を生成できる「全モーダル型の汎用AIアシスタント」として紹介されている。
特に注目されているのが、「フラッシュアプリ」と呼ばれる機能だ。ユーザーが「設備点検のチェックリストが欲しい」「出張経費を自動集計したい」といった要望を自然な言葉で伝えると、最短30秒で簡易アプリを自動生成してくれる。

※写真はイメージです
公開から4日で100万件、6日で200万件を超えるダウンロードを記録したとされ、国内外の他のAIアプリよりも速いペースでユーザーを獲得している。
スマートフォンのカメラ映像をAIの入力として扱う機能もあり、目の前の機器や風景を撮影すると、その内容を理解したうえで説明や提案を返すことができる。こうした全モーダルなインターフェースは、大規模AIモデルが持つ知識や推論能力を、人間の感覚に近い形で引き出すための「窓」といえる。
4|科学啓発は「読む」から「動かす」へ
大規模AIモデル(大模型)が知識を支える土台だとすれば、その能力を引き出すのはアプリケーションやインターフェースの設計である。とりわけ、テキスト・画像・音声・動画・3Dといった複数の形式を統合して扱える全モーダルなUIは、科学啓発のあり方を大きく変えつつある。
たとえば「低空経済」を説明する場面を想像してみよう。従来なら、レポートや教科書で空域の区分や規制を文章と図で説明するのが一般的だった。大規模AIモデルと全モーダルUIを組み合わせれば、ユーザーの位置情報に基づいて上空の空域構造を3D表示し、ドローンや航空機の飛行ルートを時間軸とともにシミュレーションすることができる。ユーザーは、画面を動かしながら「なぜこの高度が制限されるのか」「新しい産業がどこに生まれそうか」を直感的に理解できる。
天文学や地球科学、ロボット工学といった分野でも同じだ。惑星の公転と自転、地震波の伝わり方、ヒューマノイドロボットの関節構造など、文章だけではイメージしづらい内容を、インタラクティブな3Dモデルやアニメーションで見せることができる。ここで鍵となるのは、コンテンツを一つひとつ手作業で作り込むのではなく、大規模AIモデルが生成した知識を、全モーダルUIで「その場に合わせて組み立て直す」という発想である。
5|これからの標準形:大規模AI×全モーダルUI
こうして見てくると、2025年の中国における科学啓発とAI活用には、すでにはっきりした構図が現れつつある。
知識を支える土台としての大規模AIモデル(大模型)と、その能力を前面に出した全モーダルなアプリケーションやインターフェース。この二層構造が、これからの科学啓発とAI活用の標準形になっていく可能性が高い。
前者は、膨大な専門知識とデータを統合し、つねに更新され続ける「見えないインフラ」として機能する。後者は、そのインフラの力を、人間の感覚や行動に寄り添う形で引き出す「見える窓」として機能する。
科学啓発は、紙の教材や一方向の講義だけではなくなるだろう。大規模AIモデルと全モーダルUIを前提に、「自分で動かし、確かめ、考える」体験として科学と付き合うことが、次のスタンダードになっていくのかもしれない。(編集:耕雲)
情報ソース(参考URL)
- 人民網・経済チャンネル「大模型、インテリジェントエージェント等が2025年度十大科学啓発キーワードに選出」
https://finance.people.com.cn/n1/2025/1121/c1004-40609062.html - 新浪財経「大模型、低空経済などが2025年“十大”科学啓発キーワードに」
https://finance.sina.com.cn/jjxw/2025-11-21/doc-infyevpw8044088.shtml - 中国青年報「低空経済、人型ロボット……2025年度“十大”科学啓発キーワード発表」
https://news.qq.com/rain/a/20251121A06M5I00 - 中国新聞網「2025年度十大科学啓発キーワード発表 大模型、人型ロボット、インテリジェントエージェント等が選出」
https://news.qq.com/rain/a/20251121A04KX600 - 中国証券報ほか「アント・グループ、全モーダル汎用AIアシスタント『灵光』を発表 自然言語30秒で小アプリ生成」
https://finance.eastmoney.com/a/202511183567463190.html - China Daily「AIアシスタント『灵光』、公開4日でダウンロード100万件突破」
https://cn.chinadaily.com.cn/a/202511/24/WS69241737a310942cc49930d2.html - 新浪財経ほか「『灵光』公開6日で200万ダウンロード “手作りAIアプリ”ブームを喚起」
https://finance.sina.com.cn/roll/2025-11-24/doc-infynmfc5853802.shtml
https://news.mydrivers.com/1/1088/1088282.htm
