米国の著名な旅行雑誌『National Geographic』が発表した「Best of the World 2026」に、日本からは山形県が国内で唯一選出された。山寺や蔵王、銀山温泉といった観光地が評価される一方で、近年の熊出没ニュースが相次ぐ。世界が認めた山形の魅力と、その裏側にある現代的な課題を探る。
世界が注目する山形:「別世界の静けさ」の評価
米国の有力旅行メディア『ナショナル・ジオグラフィック(National Geographic)』は2025年10月21日、「Best of the World 2026(2026年に行くべき世界の旅行先25選)」を発表した。この栄誉ある選出リストに、日本からは山形県が唯一選ばれた。日本政府観光局(JNTO)も、この選出を地方誘客促進の好機として、引き続き日本各地の魅力の発信に取り組むと発表している。
秋の紅葉に包まれた山寺(宝珠山立石寺)。ナショナル・ジオグラフィックが評価した「静寂の絶景」を象徴する
「ナショナル・ジオグラフィック」が山形県を評価した理由は、その独特な魅力にある。東京から300km圏内という比較的近い距離にありながら、「別世界のような静けさ」を保つ場所として認識されたのだ。聖なる山々、静寂に包まれた寺社、フォトジェニックな温泉、四季を通じて各地で開催される伝統的な祭りなど、混雑を避けて通年で古くからの伝統と神秘的なアウトドア体験ができる点が高く評価された。
「別世界の静けさ」「古くからの伝統と神秘的なアウトドア体験」「通年観光」
JNTOが2025年9月に実施した東北の招請事業においても、山形県は「自然と文化の融合による唯一無二の魅力がある」と、参加した海外旅行会社から高い評価を得ている。こうした国際的な評価の積み重ねが、今回の「Best of the World」選出につながった。
山形県のWeibo(微博)公式アカウントの投稿記事から
山形の多面的な魅力:歴史と自然の融合
山形県の魅力は、複数の観光地が織りなす多層的な価値にある。天空の古刹として知られる山寺(宝珠山立石寺)は、松尾芭蕉が「閑さや岩にしみ入る蝉の声」と詠んだ歴史的な舞台である。1,015段の石段を登った先に広がる絶景は、訪れる者に精神的な充足感をもたらす。この古刹は、ナショナル・ジオグラフィックが評価した「静寂の絶景」の象徴であり、日本の精神文化を代表する場所となっている。
— 松尾芭蕉
一方、蔵王連峰は雄大な自然の代表である。神秘的な火口湖「御釜」は季節や時間帯によって色を変え、訪れる者を魅了する。
蔵王の火口湖「御釜」
冬の蔵王に現れる「樹氷」
冬の蔵王に現れる「樹氷」は、樹木が氷に覆われた幻想的な光景であり、スキー場からも眺められる蔵王の冬を代表する風景だ。スキー、温泉、ハイキング、トレッキングなど、四季を通じて多彩なアウトドア体験ができる場所として、通年の観光地として機能している。
さらに注目すべきは、銀山温泉の存在である。NHK連続テレビ小説『おしん』にも登場した。1983年から1984年に放映されたこのドラマは、40年以上経った現在でも高い人気を誇っている。
銀山温泉の大正ロマン街並み。『おしん』の舞台として世界的に有名
ノスタルジックな大正ロマンの街並みは、映画『千と千尋の神隠し』のモデルになったとも言われ、日本の原風景を感じさせる空間として国内外の観光客から愛されている。
観光の光と影:熊出没という現実と課題
しかし、光もあれば影もある。山形県の魅力の裏側に潜む厳しい現実に気付かされたのは昨今のニュースだ。近年、山形県内では熊の出没が相次いでおり、観光客や住民の安全が脅かされている。美しい豊かな自然に恵まれているからこそ、野生動物が身近な存在となることもある。

山形県での熊出没を報じるニュース。野生動物としての熊は豊かな自然環境の象徴であり、同時に課題の源泉
直近の事例では、2025年11月8日午後2時15分、新庄市のJR新庄駅構内で熊1頭が目撃された。駅員ら7人が車庫に避難し、市などが設置した箱わなで午後4時ごろに捕獲された。この事態を受け、山形新幹線が1本運休し、駅構内の清掃が行われた。観光地としての山寺や蔵王の近くでも目撃情報があるとされる。
JR新庄駅構内への熊侵入。駅員7人が避難、山形新幹線1本が運休。猟友会は、2025年のクマは凶暴化していると指摘している。
人間と自然の共存:「静寂」の裏にある課題
ナショナル・ジオグラフィックが評価した「別世界の静けさ」や「混雑を避けた体験」は、手つかずの自然が豊かに残っていることの裏返しでもある。この豊かな自然が、野生動物との距離を近づけている現状を直視する必要がある。
原生林と渓流。豊かな自然が野生動物の生息地であることを象徴する
「静寂」と「野生」は隣り合わせの関係にある。観光地として評価される山形の自然環境は、同時に野生動物の生息地でもある。熊の出没問題は、単なる安全上の課題ではなく、人間と自然との共存という現代社会が抱える根本的な問題を象徴している。
これからの山形に求められるもの
「Best of the World」に選出されたことは、山形の持つ普遍的な魅力が世界に認められた証だ。が、熊の出没問題が象徴する課題に直面していることから、山形には複数の視点からの対策が求められる。
参照情報ソース
公式発表・プレスリリース
https://www.nationalgeographic.com/travel/best-of-the-world-2026/article/yamagata-japan
https://www.jnto.go.jp/news/press/20251022.html
ニュース報道
https://www.yomiuri.co.jp/national/20251108-OYT1T50075/
https://mainichi.jp/articles/20251108/k00/00m/040/146000c
観光情報・ガイド
https://www.gltjp.com/ja/article/item/20403/
https://note.com/bostonmio/n/n03ce68b409df
