アーカイブ
2025-11-10

「行くべき世界の旅行先25選」に山形:静寂と絶景の魅力は卓越、栄誉の裏に熊対策の課題も


Yamagata Article Cover

「行くべき世界の旅行先25選」に山形

静寂と絶景の魅力は卓越、栄誉の裏に熊対策の課題も

米国の著名な旅行雑誌『National Geographic』が発表した「Best of the World 2026」に、日本からは山形県が国内で唯一選出された。山寺や蔵王、銀山温泉といった観光地が評価される一方で、近年の熊出没ニュースが相次ぐ。世界が認めた山形の魅力と、その裏側にある現代的な課題を探る。

世界が注目する山形:「別世界の静けさ」の評価

米国の有力旅行メディア『ナショナル・ジオグラフィック(National Geographic)』は2025年10月21日、「Best of the World 2026(2026年に行くべき世界の旅行先25選)」を発表した。この栄誉ある選出リストに、日本からは山形県が唯一選ばれた。日本政府観光局(JNTO)も、この選出を地方誘客促進の好機として、引き続き日本各地の魅力の発信に取り組むと発表している。

Yamadera Temple

秋の紅葉に包まれた山寺(宝珠山立石寺)。ナショナル・ジオグラフィックが評価した「静寂の絶景」を象徴する

「ナショナル・ジオグラフィック」が山形県を評価した理由は、その独特な魅力にある。東京から300km圏内という比較的近い距離にありながら、「別世界のような静けさ」を保つ場所として認識されたのだ。聖なる山々、静寂に包まれた寺社、フォトジェニックな温泉、四季を通じて各地で開催される伝統的な祭りなど、混雑を避けて通年で古くからの伝統と神秘的なアウトドア体験ができる点が高く評価された。

評価ポイント:
「別世界の静けさ」「古くからの伝統と神秘的なアウトドア体験」「通年観光」

JNTOが2025年9月に実施した東北の招請事業においても、山形県は「自然と文化の融合による唯一無二の魅力がある」と、参加した海外旅行会社から高い評価を得ている。こうした国際的な評価の積み重ねが、今回の「Best of the World」選出につながった。

Yamadera Temple

山形県のWeibo(微博)公式アカウントの投稿記事から

山形の多面的な魅力:歴史と自然の融合

山形県の魅力は、複数の観光地が織りなす多層的な価値にある。天空の古刹として知られる山寺(宝珠山立石寺)は、松尾芭蕉が「閑さや岩にしみ入る蝉の声」と詠んだ歴史的な舞台である。1,015段の石段を登った先に広がる絶景は、訪れる者に精神的な充足感をもたらす。この古刹は、ナショナル・ジオグラフィックが評価した「静寂の絶景」の象徴であり、日本の精神文化を代表する場所となっている。

「閑さや岩にしみ入る蝉の声」
— 松尾芭蕉

一方、蔵王連峰は雄大な自然の代表である。神秘的な火口湖「御釜」は季節や時間帯によって色を変え、訪れる者を魅了する。

Zao Okama Crater Lake

蔵王の火口湖「御釜」

Zao Juhyo Snow Monsters

冬の蔵王に現れる「樹氷」

冬の蔵王に現れる「樹氷」は、樹木が氷に覆われた幻想的な光景であり、スキー場からも眺められる蔵王の冬を代表する風景だ。スキー、温泉、ハイキング、トレッキングなど、四季を通じて多彩なアウトドア体験ができる場所として、通年の観光地として機能している。

さらに注目すべきは、銀山温泉の存在である。NHK連続テレビ小説『おしん』にも登場した。1983年から1984年に放映されたこのドラマは、40年以上経った現在でも高い人気を誇っている。

Ginzan Onsen

銀山温泉の大正ロマン街並み。『おしん』の舞台として世界的に有名

ノスタルジックな大正ロマンの街並みは、映画『千と千尋の神隠し』のモデルになったとも言われ、日本の原風景を感じさせる空間として国内外の観光客から愛されている。

観光の光と影:熊出没という現実と課題

しかし、光もあれば影もある。山形県の魅力の裏側に潜む厳しい現実に気付かされたのは昨今のニュースだ。近年、山形県内では熊の出没が相次いでおり、観光客や住民の安全が脅かされている。美しい豊かな自然に恵まれているからこそ、野生動物が身近な存在となることもある。

Bear Wildlife

山形県での熊出没を報じるニュース。野生動物としての熊は豊かな自然環境の象徴であり、同時に課題の源泉

直近の事例では、2025年11月8日午後2時15分、新庄市のJR新庄駅構内で熊1頭が目撃された。駅員ら7人が車庫に避難し、市などが設置した箱わなで午後4時ごろに捕獲された。この事態を受け、山形新幹線が1本運休し、駅構内の清掃が行われた。観光地としての山寺や蔵王の近くでも目撃情報があるとされる。

2025年11月8日の事例:
JR新庄駅構内への熊侵入。駅員7人が避難、山形新幹線1本が運休。猟友会は、2025年のクマは凶暴化していると指摘している。

人間と自然の共存:「静寂」の裏にある課題

ナショナル・ジオグラフィックが評価した「別世界の静けさ」や「混雑を避けた体験」は、手つかずの自然が豊かに残っていることの裏返しでもある。この豊かな自然が、野生動物との距離を近づけている現状を直視する必要がある。

Forest Wilderness

原生林と渓流。豊かな自然が野生動物の生息地であることを象徴する

「静寂」と「野生」は隣り合わせの関係にある。観光地として評価される山形の自然環境は、同時に野生動物の生息地でもある。熊の出没問題は、単なる安全上の課題ではなく、人間と自然との共存という現代社会が抱える根本的な問題を象徴している。

これからの山形に求められるもの

「Best of the World」に選出されたことは、山形の持つ普遍的な魅力が世界に認められた証だ。が、熊の出没問題が象徴する課題に直面していることから、山形には複数の視点からの対策が求められる。

安全の確保 — 観光客と住民の安全を最優先とした対策が必要。熊との遭遇を避けるための施設整備、情報提供体制の充実、緊急時の対応体制の強化など、多角的なアプローチが求められている。
共存の模索 — 豊かな自然を守りつつ、野生動物との適切な距離感を保つための知恵が必要。観光開発と自然保全のバランスを取りながら、人間と野生動物が共存できる環境づくりが重要だ。
持続可能性 — 「静寂の絶景」を未来へつなぐためには、長期的な視点で山形の魅力を守り続ける必要がある。世代を超えて「別世界の静けさ」を保ち続けることが、世界が山形に期待する真の「Best of the World」の実現につながる。(編集:耕雲)

参照情報ソース

公式発表・プレスリリース

National Geographic「Yamagata Prefecture might just be Japan's best-kept secret」
https://www.nationalgeographic.com/travel/best-of-the-world-2026/article/yamagata-japan
日本政府観光局(JNTO)「山形県が米有力旅行メディアで『2026年に行くべき世界の旅行先25選』に選出!」
https://www.jnto.go.jp/news/press/20251022.html

ニュース報道

読売新聞「山形・新庄駅にクマ、箱わなで捕獲…」(2025年11月8日)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20251108-OYT1T50075/
毎日新聞「山形のJR新庄駅にクマ 駅員らが車庫に閉じ込める」(2025年11月8日)
https://mainichi.jp/articles/20251108/k00/00m/040/146000c

観光情報・ガイド

GLTJP「【銀山温泉の観光ガイド】古き良き日本を感じられる寛ぎの空間」
https://www.gltjp.com/ja/article/item/20403/
note「40年越しの奇跡。『おしん』聖地・山形に世界中から人が集まっている」
https://note.com/bostonmio/n/n03ce68b409df

— 世界が選んだ旅の目的地 —

『National Geographic』 Best of the World 2026

🌍

National Geographic

Best of the World 2026

1ドロミーティ、ミラノ
イタリア
2026年冬季オリンピック・パラリンピック開催地。伝説的なアルプス山脈の景観と高級ホテルへの注力。
2ケベック
カナダ
先住民主導の体験が際立つ新しい原生地域公園(ニビシチ公園)。
3北京
中国
壮大な歴史、文化的宝物、エキサイティングな体験。北京中軸線がユネスコ世界遺産に追加。
4ドミニカ国
カリブ海
世界初のマッコウクジラ保護区(2026年初頭までに設立予定)。
5ラバト
モロッコ
12世紀の城塞と20世紀のフランス建築が共存する歴史ある都市。2026年世界図書首都。
6ハル、ヨークシャー
英国
800年以上の海洋史をテーマにした5,300万ドルの大規模プロジェクトが2026年に完了。
7ノースダコタ州バッドランズ
米国
セオドア・ルーズベルト大統領図書館が2026年7月4日に開館。先住民主導のハイキング体験も。
8マニラ
フィリピン
2026年ミシュランガイドに選出され、多様な食文化が注目されている。
9黒海沿岸
トルコ
混雑したエーゲ海や地中海沿岸に代わる、冒険的で文化的に豊かな選択肢。
10ヒヴァ
ウズベキスタン
高速鉄道の開通と初の国際的な5つ星ホテル(Mercure Khiva)の開業でアクセスが向上するシルクロードの都市。
11アカゲラ国立公園
ルワンダ、東アフリカ
混雑が少ない「ビッグ・ファイブ」のサファリ体験。保護活動によりサイの個体数が増加。
12ウルル=カタ・ジュタ国立公園
オーストラリア
世界最古の生きた文化。初の国立公園内宿泊トレッキングツアーが開始。
13バスク地方
スペイン
2026年8月12日の皆既日食の観測地。グルメと文化の中心地。
14オアハカ州沿岸部
メキシコ
ビーチとオアハカの食文化が融合。ウミガメの保護活動も。
15フィジー
南太平洋
マンタの保護活動と、持続可能な観光への取り組み。
16ギマランイス
ポルトガル
ポルトガル建国の地。歴史的な中心地と現代的な文化が融合。
17メデジン
コロンビア
音楽、アート、ファッション、デザインの中心地として進化する都市。
18マウイ島、ハワイ
米国
2026年皆既日食の観測地。火山景観と豪華なリゾート。
19オウル
フィンランド
2026年欧州文化首都。北極圏の自然とテクノロジーが融合。
20ピッツバーグ
米国
産業都市から文化的な革新者へと進化。フレッド・ロジャースの遺産。
21リオデジャネイロ
ブラジル
2026年皆既日食の観測地。ビーチ、文化にも注目。
22ルート66:オクラホマ州
米国
象徴的なルート66の100周年。8,200万ドルを投じた改修プロジェクト。
23韓国(東西横断トレイル)
韓国
900kmの海岸から海岸へのトレイルが2026年に完成予定。
24バンクーバー
カナダ
2026年FIFAワールドカップの開催地。豊かな自然と先住民主導のツアー。
25山形県
日本
古代からの伝統と、人混みのない異世界のようなアウトドア体験(樹氷、温泉、出羽三山)。




この記事をシェアする

関連記事

アーカイブ

「ニャー」は世界語になれるのか?

2026-02-22

ライブラリ
アーカイブ

言葉の居場所、その輪郭――漱石の孤独と「母語」で話せる社会

2026-02-21

ライブラリ
アーカイブ

急ぐべきはリニアか、それとも新幹線の“ループ”? 問われる鉄道「迂回力」

2026-02-20

ライブラリ