
【ニューズレター】|2026年2月6日

ストレス社会の奇妙な解決法?
中国で"大人用おしゃぶり"がバズる
中国のネットショップで、大人向けのおしゃぶりが人気を集めている。価格帯は10元から500元まで幅広く、ある店舗では月間販売数が2,000個を超える。過剰な競争に疲れた若者たちの「退行的消費心理」と、ストレス社会のリアルがそこに透けて見える。
❖ 現代社会における「退行」の考察
心理学者アブラハム・マズローは、人間には時に「退行」が必要だと説いた。その一つが「コウスティング(coasting)」と呼ばれる概念である。知的な努力や活動を一時的に休止し、無理のないペースでゆったりと過ごすこと。荒海へ漕ぎ出すのではなく、浜辺に沿って静かに漂うような休息の状態を指す。健全に力を抜くための心の技法といえるだろう。
この「健全な退行」を日常でどう実践するか。昭和後半のベストセラー『知的生活の方法』(渡部昇一)は、その一例として「就寝前に蜂蜜入りのミルクを飲むこと」を勧めている。著者によれば、それは「ふとんに潜り込む、という退行の必要を満たす最良の条件になる」からだという。
❖ 退行現象と安心感
では、中国で大人用おしゃぶりが流行している現象もまた「健全な退行」の一例と見てよいだろうか。主要ECプラットフォームでは「成人用安撫奶嘴(大人用おしゃぶり)」の検索が急増しており、10元(約200円)から500元(約1万円弱)の商品が並ぶ。シリコン製や改良型デザインなど種類は豊富で、レビュー欄には「安心感がある」「睡眠が改善した」といった書き込みが目立つ。販売データでは、ある店舗で月2,000個以上が売れる例も確認されている。
利用者層は20代から30代前半の女性に多いとされ、中国社会特有の「内巻(ネイジュアン)」――過度な競争や成果主義――が背景にあると専門家はみる。無意識に幼児期の安心感へ回帰する防衛機制が働いているというのだ。さらに流行は海外にも広がり、TikTokでは「Adult Pacifier」として動画が拡散し、ストレスケアグッズの一つとして紹介されている。

❖ "癒やし消費"のリアル
メーカー側は「ストレス軽減」「禁煙補助」「間食習慣の改善」「睡眠の質向上」「夜間の歯ぎしり防止」など、多様な効能を謳う。心理カウンセラーはこの流行を「ストレス代償行動」と捉え、口唇期に回帰し吸う行為によって安心感を得ようとする心理が背景にあると説明している。
一方で、口腔医学の専門家はリスクを警告する。毎日3時間以上、1年以上使用すると歯の位置が変わり、開咬や顎関節障害を引き起こす可能性がある。また、おしゃぶりを咥えたまま眠ることで、窒息や誤飲、口腔粘膜の損傷の危険も指摘されている。

❖ 社会的示唆
重要なのは、大人用おしゃぶりがストレス軽減の"補助ツール"にはなり得ても、ストレス社会そのものの解決策にはならないという点である。ネット上には「大人がこんなものを使うのはおかしい」といった批判もあるが、肯定的な声と否定的な声が交錯することで、現代社会のストレス問題の複雑さと、人々の対処法の多様性が浮き彫りになっている。
企業の視点から見れば、ここには「エモーショナル消費(感情価値消費)」のヒントがある。人々が安心や癒やしを求める限り、その心理に応える商品やサービスは市場を形成する。大人用おしゃぶりの流行は、一見ユーモラスでありながら、消費者心理を読み解くための重要な示唆を含んでいる。
(編集:耕雲)
情報ソース
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