出所者の再出発——扉を開くのは誰? パンドンライの決断、日本の現実

再出発の扉は誰が開く?——胖東来が示す社会包摂のかたち、日本との比較
人は一度過ちを犯したら社会復帰は困難なのかーー。そんな問いをめぐり、中国と日本で注目すべき動きがあった。中国の小売大手・胖東来(パン・ドンライ)が、刑罰を終えて釈放された人の採用枠を新設し、大きな議論を呼んでいる。一方、日本では2025年7月の参議院選挙で服役経験者が東京選挙区から立候補し、再犯防止や社会復帰支援の強化を訴えた。

胖東来が踏み出した挑戦
胖東来(パン・ドンライ)は中国・河南省許昌市を本拠とし、許昌・新郷などで店舗を展開する小売企業である。創業者の于東来氏は8月10日、SNS(微博)で刑罰を終えて釈放された人を採用する方針を公表した。初回は約20人の受け入れから始め、将来的には中・重度の経歴を持つ人にも段階的に枠を広げる計画だ。
于氏は「刑期を終えた人はすでに法的に平等な公民であり、社会は差別や偏見ではなく、尊厳と機会を与えるべきだ」と強調。これまで採用が敬遠されてきた層に対し、企業としてリスクを引き受けながら社会包摂(ソーシャル・インクルージョン)を実践する姿勢を示した。
同社は2025年1〜7月で累計売上133.86億元、2024年には年間売上約170億元・利益8億元超を記録しており、安定した経営基盤がこうした社会的チャレンジを下支えしている。
▷胖東来が掲げた方針の要旨
先進的な生活理念の普及と社会・国家の発展支援。
刑罰を終えて釈放された人を尊重し、再出発の機会を提供。
過去に過ちを犯した人も平等な市民として支援。
本人が経験を共有し、社会に還元する価値を重視。
差別や偏見を排し、尊厳・幸福追求の権利を保障。
初回は中・軽度から採用開始、段階的に対象を拡大。
採用者を模範的存在に育成し、社会改善を促す。
採用外の人にも生活理念の学習と専門性向上を促す。
自信・理解・愛の共有を通じ、より良い社会・国家・生活を実現。
参院選で薄められた問題意識
海を隔てた日本では、れいわ新選組(代表:山本太郎議員)が2025年7月の参議院選挙・東京選挙区で、元衆議院議員で服役経験のある山本ジョージ(譲司)氏を擁立した。同党は2019年参院選で木村英子氏(脊髄性筋萎縮症)と舩後靖彦氏(ALS)の当選を実現するなど、包摂的な政治の実績を積み重ねてきた政党である。
山本ジョージ氏は選挙戦で、刑務所での福祉や更生支援の現場体験を政策に反映させ、再犯防止や社会復帰支援の充実を訴えたが、結果は落選となった。選挙活動期の報道が他党の著名候補に集中したことや、一部の争点が過度に注目を集めたことなどにより、彼の訴えが有権者に十分浸透しなかったとの見方がある。

偏見をなくすための環境づくり
本稿で取り上げたのは、中国の企業施策と日本の国政選挙という異なる舞台における話題だが、「過去を理由に社会から排除されがちな人々に再出発の機会を与える」という課題意識は共通している。中国では企業が服役経験者の採用を公に打ち出す例は依然として稀であると目される。
一方の日本には、刑務所出所者や少年院出院者の更生・社会復帰を官民協働で支援する「職親プロジェクト」があるほか、法務省・厚労省に登録された「協力雇用主」制度も存在する。協力雇用主については、自治体によっては公共調達(入札)で加点等の優遇を受けられる場合がある。とはいえ、参議院選挙の結果や露出状況を見るかぎり、こうした制度への社会的関心もまだ十分なものとは言いがたい。

出所:日本・法務省資料等

「協力雇用主制度」や「職親プロジェクト」に登録・参加している企業の一部
国際的潮流と社会包摂のこれから
欧米では「Ban the Box」(採用時に犯罪歴の申告欄を設けない)運動が広がり、企業の実務に影響を与えている。北欧諸国では更生支援と社会復帰プログラムを制度的に整備し、再犯率の低下に資する取り組みが進む。
「一度の過ちで全てを失わせる」のではなく、「やり直しができる社会」を築く——。その実現には、制度・政策の整備に加え、人々の意識の変化と関心の高まりが欠かせない。(編集:耕雲)
参考

