「#元知事がんばれ」に隠された意図、中国語では『前』と『元』をどう区別?
兵庫県知事選の際にSNSで注目されたハッシュタグ「#さいとう元知事がんばれ」。その「元知事」の表記には巧妙な意図が隠されていた。これが適切な表現かどうかは意見が分かれるが、中国語の表現方法と合わせて考えると、さらに興味深い一面が浮かび上がる。
学習者を悩ませる“同形異義語”
日本語と中国語は、同じ漢字を使いながらも意味や使い方が異なることが少なくない。例えば、中国語の「高校(gāo xiào)」は「大学」を指し、「高等学校」ではない。また、「大家」や「老婆」も日本語とは異なる意味を持つ。これらは、中国語学習者(と同時に日本語学習者)にとって悩ましい“同形異義語”の例として挙げられる。
方向や時制の表現にも違いがある。「東西南北」は中国語で「东南西北(dōng nán xī běi)」と記載され、配置順序が日本語とは逆になる。また、現在を意味する中国語の「目前(mù qián)」は、日本語では「目下」と訳され、使われる漢字が異なる点も面白い。
「元」と「前」のニュアンス
日本語では、「前」という漢字に直前を示す意味合いが強く含まれる印象がある。例えば、2024年11月時点における新聞報道では「岸田前首相」と表記されても、「岸田元首相」とは記されない。日常会話でも「元カノ」「元カレ」に対して「前カノ」「前カレ」と言う使い分けもあり、「元」と「前」の微妙なニュアンスの違いが反映されているのは興味深い。
一方、中国語では、岸田氏も安倍氏も「日本国前首相」である。直前まで任意の役職に就いていた人と、過去の「歴任者」を「前」と「元」で区別する慣習はなさそうだ。ちなみに、中国語の「前天(qián tiān)」は「一昨日(おととい)」の意味になる。「前」が意味するニュアンスにも日本語と中国語には微妙な差異が存在していそうだ。
「#さいとう元知事」に隠された意図
兵庫県知事選の際にSNSで広がったハッシュタグ「#さいとう元知事がんばれ」。その作成者はPR会社の女性社長であり、彼女は候補者(現知事)の名前である「元彦」を掛けて「前知事」ではなく「元知事」にしたとする経緯をブログで明かした。
SEO対策として優れたアイディアだったという評価もできそうだが、賛否両論があるだろう。「元」を使うことで「過去の人」というイメージ前面に押し出してしまうデメリットもあったのではないだろうか。ともすれば「再選」や「返り咲き」の可能性を低く見せてしまう恐れもあり、この「語呂合わせ」が適切だったかどうかは疑問が残る。

平民宰相「原首相」
ちなみに、中国語で過去の役職を表す際に「前」とともに頻繁に使用されるのが「原」だ。事情通に尋ねたところ、中国国内のマスメディアの報道では、「原首相◯◯◯」といった要領で記すのがフォーマルということだ。語順については英語の要領(Former prime minister ◯◯◯)に相似している。
となると、奇妙な感じを抱く人もでてきそうだ。大正デモクラシー時代、日本に平民宰相と呼ばれた首相がいた。中国語式に表記すると「原首相原敬」となる。中国語に慣れていない人が「原首(元首)」「相原」と間違った認識をする可能性はなきにしもあらずではないだろうか。(編集:耕雲)