社会・文化
2024-12-05

「抽象」と「ふてほど」の間:2024年流行語が示す日中異文化交差点

文化


中国のソーシャルメディア「小紅書(RED)」が「抽象」を年度キーワードに選んだのに対して、日本では「ふてほど」が流行語大賞を受賞。日本と中国、それぞれの世相を反映した2つの言葉から2024年のトレンドを振り返ってみよう。


小紅書(RED)、「抽象」を年度キーワードに

中国の人気ソーシャルメディア「小紅書(Xiaohongshu、RED)」が、2024年のキーワードに「抽象」を選定した。この言葉、もともとは感知しにくい現象や思考を表現するための用語だが、今では若者文化の一角をなすサブカルチャーへと昇華している。流行の起源をたどると、9年前、ゲーム好きたちが独自のスラングとして用い始めたが、いつしか日常生活にも深く根ざすトレンドになった。小紅書には「抽象」を冠したハンドルネームやハッシュタグがあふれ、その関連投稿は1000万件、コメント総数は1億6000万件にのぼるというのだから、その浸透度たるや計り知れない。


抽象文化と若者たちの自己防衛術

現代中国のネット文化を語る上で「抽象」は欠かせない。例えば、YYDS(永远的神:永遠の神)やXSWL(笑死我了:笑い死ぬほど面白い)、YYSY(有意思呀:面白いね)、NSDD(你说得对:あなたの言う通り)といったスラング表現は、日本の「w」や「草」にも響き合うものがあり、国境を超えたネット文化の交差点を感じさせる。奇抜な絵文字や誇張された表現は、現実の厳しさに押しつぶされそうな若者たちが一瞬の解放感を求める手段でもある。中国における「抽象文化」を考察したあるレポートでは、学業や仕事のプレッシャーに押されがちな若者が、「自己防衛の術」として活用していると指摘されている。


出所:小紅書Weixin公式アカウント


ショートドラマと抽象文化の融合

この「抽象」がさらに活躍の場を広げているのが、ショートドラマやライブ配信の世界だ。シュールで自由奔放な表現が好まれる中、視聴者との即興的なやり取りを通じてコンテンツが生まれる。時にユーモアや皮肉を交えた批評が社会的メッセージを届けることもあり、奇抜さや独自性が若者たちの好奇心を刺激する。ピカソが抽象画で既成概念を壊したように、「抽象」的な表現には既存の枠組みを突き破るエネルギーが宿っているといえそうだ。


規制の強化と社会的摩擦

だが、手軽さと自由さがゆえに浮上する問題もある。ネットの世界は玉石混交であり、不適切なコンテンツの氾濫が社会的摩擦を生むこともある。こうした事態を受けて、中国政府は作品の制作資格や審査制度についてガイドラインを示し、違反コンテンツの取り締まりを徹底するなどの措置をとった。2022年から2023年にかけて約2万5,300本ものショートドラマが削除され、さらに2,420件の違反コンテンツが摘発されたという。




「ふてほど」が日本の流行語大賞に

一方、日本では、12月2日に発表された「新語・流行語大賞」を受賞した「ふてほど」が話題を呼んでいる。この言葉は民放テレビのドラマ『不適切にもほどがある!』の略称だ。昭和と令和をつなぐユーモアたっぷりの社会風刺劇だが、SNSでは「ふてほど」という言葉を「聞いたことがない」とする声が少なくない。同作品が獲得したスコアは最終回で視聴率9.6%であり、ギャラクシー賞やザテレビジョンドラマアカデミー賞など幾多の栄誉を受けたとはいえ、「流行語大賞」受賞というのは現実とズレがあるのではとの指摘もある。「ふてほど」を「不適切報道」ととらえ、「ふてほど(不適切報道)大賞」を選ぼうとの書き込みまで見られた。

❖2024年の年間大賞&トップ10

■ 裏金問題(黑钱问题)

■ 界隈(圈子)

■ 初老ジャパン(初老日本)

■ 新紙幣(新钞票)

■ 50-50:

■ ふてほど(不合适也要有个限度) <年度大奖>

■ Bling-Bang-Bang-Born

■ ホワイト案件(白色项目)

■ 名言が残せなかった(没留下名言)

■ もうええでしょう(差不多够了吧)

出所:「現代用語の基礎知識亅選ュ-キャン 新語·流行語大賞
https://www.jiyu.co.jp/singo/
※中国語名は「日経中文網」記事の翻訳例を踏襲。


新旧メディアのギャップ際立つ

中国のSNS「小紅書」がオンライン文化を深く掘り下げた言葉を年度キーワードに選出したのに対し、日本の流行語大賞ではオールドメディアによるドラマが発祥となったのは極めて対照的だ。それでも、今年は兵庫県知事選挙などでネットの影響力が旧来のメディアのそれを凌駕する事象さえ見られたエポックメイキングな年となった。

数年後、2024年を改めて振り返るとき、「ふてほど」はどのような意味で認識されているだろうか。一斉を風靡したドラマのタイトルとして記憶されているのか。それともマスコミとネットの文化的な溝を象徴する言葉として認識されているのか。結論が出るのはもう少し先になりそうだが、「ふてほど」はメディアの進化の一断面を見せる“適切”なキーワードなのではと納得がいった。(文・編集:耕雲)


 参考 

  • 当代年轻人为什么热衷于“抽象文化” - 小红书

  • 话题热点PPT🌸年轻人为何爱搞抽象?- 小红书

  • 抽象是短视频在2024的最大主题

  • 抖音下架240部违规微短剧,点名《女帝》等导向不良、低俗擦边_10%公司_澎湃新闻-The Paper

  • 「現代用語の基礎知識」選 2024ユーキャン新語・流行語大賞 年間大賞&トップ10発表!| 株式会社ユーキャンのプレスリリース

  • 「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞




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