“柴狗”が都市に戻る日──「中華田園犬」飼育解禁の意味
🐕 "柴狗"が都市にやって来た──中華田園犬「解禁」が映す現代中国の文化と社会
「土狗(どく)」と呼ばれ、長らく都市での飼育が禁じられてきた中華田園犬が、深圳・広州・長沙で相次いで“解禁”となったことが話題となっている。これは単なる犬種の再評価ではない。都市の文化、制度、そして記憶との再接続をめぐる物語でもある。
🐾 柴犬ではない、「土狗」という存在
それは柴犬ではない。ましてや洋犬でもない。門前を守り、畑を走り、子どもたちの後をついて歩いた──「土狗(どく)」、あるいは「柴狗」と呼ばれ、農村部では番犬や狩猟犬として親しまれてきた土着の在来種を「中華田園犬」と呼ぶ。
庶民の生活と共にあった中華田園犬は日本の柴犬のように血統や形態が標準化されていない。個体によって性格も外見もばらつきがあり、ペットとしてのイメージは乏しい。そのため、現在のブランド化が進むペット市場では“注目されにくい犬種”というのが実状だ。
🏙️ 南方から始まった「解禁」の流れ
さらに中華田園犬は肩高が50センチを超える個体が多く「大型犬」に該当しやすい。忠実と言われる一方で「気性が不安定」「攻撃性がある」といった偏見もある。こうしたことから「危険犬種目録」にも登録され、都市での飼育が禁じられてきた。
そんな中華田園犬を再び合法的に飼えるようにする政策を打ち出す都市が近頃増えてきたことがネットで話題になっている。口火を切ったのは深圳市で、2024年11月に"解禁"都市の第一号となり、その後、広州(2025年 1月)、長沙(同年6月)が続いた。

🧩 犬の問題ではなく、人の問題
直近の長沙市による"解禁"を伝える報道記事では、市の方針転換について湖南省動物保護協会の関係者のコメントを紹介している。「土着犬による咬傷事件が多く見えるのは、単に頭数が多く、管理されずに放し飼いされている個体が多いため」であり、「犬種の問題ではなく飼い主の管理責任の問題」だという。
実際、飼育を禁じる規制が強化されたことによって、中華田園犬が遺棄され、郊外で野良犬化する事態が起こってきたとされる。交通事故や衛生面の問題が生じることもあり、飼育規制の目的に反した結果がもたらされてきた面もありそうだ。
🔄 「解禁」は価値観の転換
また、"解禁"は、これまでの価値観そのものの転換を意味するいう指摘もある。犬と都市の中でどう共に生きるかという“文明的な飼い方”が問い直されているというのだ。興味深いのは、"解禁"に向けた動きがSNSや市民の感情によっても後押しされているという点である。
「柴狗進城(柴犬ではなく“柴狗”が都会にやって来た)」というタグが、中国版SNS・小紅書(RED)や微博(Weibo)で話題を呼ぶ。若者たちのあいだで田園犬を再評価する動きが広がっている。
📚 学術界も評価を見直す
中華田園犬の復権の背景には、それが文化そのものなのだという視点がある。高価な血統書など持たずとも、忠誠と素朴さと、そして飾らぬ存在感で、中華田園犬は“心のブランド犬”となりつつあるといってよいだろう。
忘れてはならないのが、専門家たちによる価値の再定義である。再び メディア報道から引用すると、「中華田園犬は、中国の風土と生活にもっとも適応した、何千年もかけて自然淘汰されてきた知恵の結晶である」と湖南農業大学の屠迪副教授は指摘している。
⚖️ 解禁は“自由”ではなく“責任”
——ある夕暮れ、山道をたどる老郵便配達人とその息子が、静かに佇む。横には、じっと主人の顔を見上げる犬。四半世紀前の中国映画『山の郵便配達(那山那人那狗,Postmen in the Mountains)』のワンシーンは、まるで静かに「あなたは、どんな命と共に生きたいのか?」と私たちに問いかけているかのようだ。
中華田園犬の飼育解禁は「自由」だけではなく「責任」の自覚を飼い主に迫ることでもある。登録制度、ワクチン接種、放し飼いの禁止、公共マナーの啓発──。義務として課せられることは少なくない。それでも、かつて祖先とともに生きていた“犬との関係”を、いま一度自覚的に選び直すという点で意義深い。(編集:耕雲)

📎 情報源
南方都市報《“柴狗”也是狗,请给它一点尊重》(2024年11月) 深圳市城市管理和综合执法局「关于优化犬类管理种类的通知」(2024年11月) 広州市住房城乡建设局「危险犬种目录公告」(2025年1月8日) 長沙日報《關於修改〈長沙市養犬管理條例〉的建議》 紅網評論《中華田園犬,何以要從"危險犬種"名單中解放出來》(2025年6月) 小紅書(RED)話題「#柴狗進城」検索結果(2025年6月) 湖南日報「屠迪副教授 訪談記事」(2025年6月)
