広告コピーはなぜ炎上する?電池メーカーの笑えないユーモアと「24時間戦えますか」の終焉

広告コピーはなぜ炎上する?
電池メーカーの笑えないユーモアと「24時間戦えますか」の終焉
電池メーカーの広告が炎上
福建省南平市の南孚電池が高速鉄道の座席テーブルに掲出した広告が、ネット世論を沸騰させた。
「好喜欢和我的领导一起出差,堪比南孚电池,耐力持久超长续航,上车开始聊工作,下车还能接着聊,一点都!不!累!」
(訳:上司と出張するのが大好き。南孚電池のように持久力抜群で超長持ち。乗ってから降りるまで、ずっと仕事の話をしても全然疲れない!)
一部のネットユーザーはこれを「ブラックユーモア」と受け取る向きもあったが、「気持ち悪い」「現実離れ」との批判が目立った。長時間労働を美化し、上司への過度な追従を賛美するコピーは、もはやジョークとして通用しない。
中国の広告法が求めるのは「健康的で良好な社会風俗に合致する表現」である。受けを狙うために打った広告が、"地雷原"を踏み抜くこともあるのだ。
外国企業が抱える「無自覚リスク」
コピーが炎上するのは中国国内の企業だけではない。外国企業も幾度となく火傷してきた。
トヨタ「プラド」広告問題
獅子が車に敬礼する描写や、ランドクルーザーが旧式トラックを牽引するイメージで中国消費者から反発。現地紙で謝罪広告を掲載。
Xiaomi日本向け動画炎上
寿司型の電池を食べた人物が爆発してきのこ雲が立つ描写が「被爆」を想起させると批判。
ソニー新製品発表日問題
敏感な歴史的事件の日に新製品発表日を設定し罰金処分。
スウォッチ「つり目」広告
「つり目」ポーズの広告で人種差別の批判に晒される。
また、ドルチェ&ガッバーナ(D&G)がプロモーション動画に箸を使ってイタリア料理を食べる中国人女性モデルの様子をコミカルに描き、非難を受けたこともある。
労働観の変化とコピーの限界
広告は社会の倫理観を映す鏡である。南孚電池の広告炎上は、その鏡に映る時代の姿をくっきり示した。
バブル期、栄養ドリンク「リゲイン」の「24時間、戦えますか。」が企業戦士の合言葉となり、1989年には流行語大賞にも選ばれた。だが、働き方改革関連法で残業規制が導入されると、いまやこのフレーズは「ブラック企業」の象徴として葬り去られている印象がある。
中国も事情は似ている。IT業界で広まった「996」(朝9時〜夜9時・週6日勤務)は"奮闘"の証とされたこともあったが、ジャック・マーが擁護発言をした際には若者の反発を買い、炎上の嵐に見舞われた(2019年)。
もはや「がむしゃらに働け」と叫ぶコピーは、社会から喝采を得るどころか袋叩きに遭う。むしろ広告の勝負どころは、ワーク・ライフ・バランスやウェルビーイングをどう描くかに移っているのではないか。
【Nanaco】996--ハイテク業界の労働慣行を巡って侃々諤々 | Nanaco Geekly News 2019.05.01
さらば「996」、微信の事業部門が「1065」就業ルールを導入
今回の広告炎上事件では「擦边式(cābiān shì)营销」(エッジボール。規制や倫理のギリギリを狙ったマーケティング)という手法が再び俎上に載った。性的暗示や挑発的な表現は一時的に注目を集めるが、長期的にはブランド価値を削る毒にもなりうる。
広告コピーは軽妙な言葉の運用と智慧の結晶に見える一方、綱渡りのリスクマネジメントでもある。受けを取るつもりが、笑えない炎上に変わる瞬間はあまりに早い。南孚電池の一件は、広告表現がいかに社会の空気と地雷原を同時に読み解く作業であるかを教えてくれる。(編集:耕雲)
