中国で「コスパ志向」が台頭
まず物価動向である。国家統計局によれば、2025年8月のCPIは前年比▲0.4%とマイナスを記録し、食品が押し下げ要因となった。月次では横ばいで、年初来平均も▲0.1%である。インフレ圧力が弱い環境は、値ごろ感を重視する支出行動と整合している。([1])
家計マインド面でも、人民銀行の四半期調査(2025年Q2)は「次四半期に物価が上がる」とみる回答が20.3%にとどまったと報じられている。高い割合が「横ばい」を見込んでいる状況は、消費者が"理性的な最適化"を重視する地合いを示している。([2])
サイゼリヤの「価値密度」はなぜ高いか
サイゼリヤは、中国本土で"手頃だが満足できる日常食"として定着している。典型的な一人当たりの支出は約50元と伝えられ、若年層・学生の外食ニーズを広く取り込む価格帯にある。「イタリアン版・沙県小吃(庶民派ローカルチェーンの代名詞)」という通称は、そのポジショニングを象徴すると言えるだろう。([3])
サイゼリヤは2035年までに中国で約1000店規模を目指す方針を明らかにしており、足元では武漢での子会社設立を決定した。
中部エリアを軸に多店舗化を推進することで、需要地近接の供給体制を強化する構えだ。([4])
「製造直販」型の供給設計——"お値打ち"の理由
サイゼリヤは一貫した"製造直販(SPA)"に近いモデルで、生産・加工・物流・店舗を垂直統合していることで知られる。サプライチェーンの上流から標準化とコスト管理を徹底することで、低価格と品質・スピードの両立を図る思想である。
スシローも続く——「値段以上の体験」で行列
サイゼリヤに続き、回転寿司チェーンのスシローも中国市場で快進撃を続けている。2024年8月に北京・西単大悦城へ初出店。公式リリースと中国メディアの報道が示す通り、開業直後から長い待ち行列が発生し、「日本式回転ずし」の体験価値が話題化した。
この人気は、価格だけでなく、回転レーン×タブレット注文といった"わかりやすい楽しさ"と提供スピードが、値ごろ感と組み合わさって体験価値(=価値密度)を底上げしていることが背景にある。中国本土の店舗数は2024年時点で40店超、2025年には50店超へ拡大と報じられ、拠点網は着実に拡大していく見通しだ。([6])
調理済み料理をめぐる期待と透明性
近年、中国の外食をめぐるネット世論では、調理済み食品(预制菜)の是非が繰り返し話題になる。中国料理チェーン「西貝(Xibei)」がネットで批判にさらされたのは記憶に新しいが、ここで重要なのは調理済み食品を"使う/使わない"の二択ではないことだ。著名ネット文化人の投稿でネット炎上、"プリメイド料理"問題の行方
日本で政治家が選挙時の公約とは異なる国会での活動を行えば信頼失墜につながるように、ブランドが掲げる約束と実装に不整合が見られれば消費者は失望する。手作り物語を前面に出し高単価が顕著になっていたブランドが調理済み食品の使用を常態化していたとすればネット炎上に行き着きやすいのは想像に容易い。
一方、サイゼリヤは"工場一貫"と低価格・スピードを前提にしたことで、受け手の期待に合致しやすい背景があった。
同じ"時短・標準化"を推進していても、サイゼリヤの場合は価値と価格、そして調理方法の透明性が確保されることで、消費者の信頼を勝ち得たといえるだろう。
「価値密度」を競う新常識
"これ見よがし"の消費が流行らず、コスパ志向が明確になったいまでも、"安さだけ"では選ばれることはない。安定した低価格、標準化された体験、そして供給面の透明性——この三点が整ったとき、支払い1元あたりの満足度=価値密度は最大化する。
サイゼリヤは垂直統合で、スシローは体験の設計で、それを証明した。市場環境としても、2024年の中国の外食は堅調な価値ベース成長を維持したと業界調査が示している。価格と体験と透明性のバランス設計こそ、今後の競争軸である。([6])(編集:耕雲)



