
中国3位、上海5位——海外在留邦人数は20年でどう変わったのか
海外在留邦人数は2005年の約101万人から2015年に約132万人へ増加したが、2025年は約130万人と横ばいに転じた。しかし本質は総数ではなく中身の変化だ。減少したのは「駐在」、増加したのは「永住」である。外務省による『2025年10月1日現在』の公表資料(2025年12月公表)を読み解いていこう。
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総数の陰で進む構造転換
外務省統計で20年間を俯瞰すると、海外在留邦人の総数は増えたものの、その構成が大きく変化したことが分かる。2005年の総数は101万2547人、2015年には131万7078人まで拡大した。2025年は129万8170人とやや減少したが、重要なのは総数ではなく内訳の変化である。長期滞在者が減少し、永住者が増加している点だ。
表1:海外在留邦人数の構造変化(2005→2015→2025)
年総数長期滞在者永住者2005年1,012,547人701,969人310,578人2015年1,317,078人859,994人457,084人2025年1,298,170人709,684人588,486人
20年間で永住者は約28万人増加し、全体に占める比率は明確に上昇した。つまり「海外に出る日本人が増えた」というより、「海外を生活の本拠とする日本人が増えた」と理解すべき局面である。
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国別順位の変動が示す価値観の転換
2025年の国別上位は、米国が416,380人で首位を維持し、2位がオーストラリア(105,566人)、3位が中国(92,928人)となった。中国は2015年の131,161人から減少し、順位を落とした。逆にオーストラリアは10万5566人へと増加し、中国を上回った。
重要なポイント:日本人の海外における国選びが「生活環境・教育・安全性・制度の見通し」に強く影響されるようになった。駐在の論理は企業都合、定住の論理は家族都合である。
パンデミック以降の移動制約や往来コスト、円安、そして働き方の多様化が、滞在の「短期⇄長期」の境界を曖昧にした。海外滞在が「派遣」から「移住に近い意思決定」へ変わるほど、統計は都市の魅力度を映す鏡となる。
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都市別ランキングが語る上海の「相対化」
都市別では2025年時点で、ロサンゼルス都市圏、バンコク、ニューヨーク都市圏が上位を占め、上海は3万1733人で5位に位置する。シンガポールが上海を上回っている点は象徴的で、ASEAN・金融・地域統括のハブとしての機能が邦人分布にも反映されている。
本質
上海は「日本人が消えた都市」ではない。依然として世界上位5都市に名を連ねている。しかし「唯一無二の中国拠点」としての特別な地位が薄れ、複数拠点の一つに位置づけられるようになった。この相対化こそが本質である。
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中華圏都市の明暗
外務省公開データを基にした集計では、上海・北京・蘇州は減少傾向が続き、香港・広州は微増、深圳は横ばいと読める。そのため、この動きを「中国離れ」という言葉で片づけるのは単純化しすぎである。
駐在員モデルの縮小
製造・販売の現地化が進むほど、日本人を大量に配置する必然性は低下する。
家族帯同の再判断
教育、治安、医療、生活コスト、心理的安心感といった生活要因が、滞在継続を左右する比重を増している。
拠点の再配置
上海・北京への集中から、華南・香港、あるいは中国外のシンガポールなどへ分散する方が、制度面やリスク管理の観点で合理的と判断されるようになった。
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これからの論点――拡大から選別へ
2025年の海外在留邦人総数は前年とほぼ同水準だが、長期滞在者は減少し、永住者は増加している。これは海外移動が勢いで拡大する局面を過ぎ、残る人・移る人が選別される段階に入ったことを示している。
今後の注目点
1 都市の復活か、定住化の加速か:中華圏主要都市の邦人数が反転するのか、それとも定住志向がさらに進むのか。
2 教育移住の波:国別順位を動かすのは企業派遣より家族要因になりやすい。オーストラリアの伸びはその先行指標である。
3 複線化するアジア拠点:中国一極集中から、東南アジア・香港・中国内複数都市への分散へ。邦人分布は「経済地図」というより「リスク地図」に近づいている。
まとめ
在留邦人統計は、海外渡航者の“頭数”ではない。
日本人がどこに生活の重心を置き、どこに根を下ろし始めたのかを示す指標である。
見るべきは増減ではなく、分布と構造の変化だ。(編集:耕雲)
参照情報源
• 外務省「海外在留邦人数調査統計(令和7年(2025年)10月1日現在)」2025年12月25日
• 外務省領事局政策課「海外在留邦人数調査統計 令和7年(2025年)10月1日現在」PDF
• 政府統計の総合窓口(e-Stat)「海外在留邦人数調査統計(平成28年要約版)」
• 政府統計の総合窓口(e-Stat)「海外在留邦人数調査統計(平成18年要約版)」
• Shenzhen Fan「中華圏都市別在留邦人数(2019-2025)」2026年1月9日