キャッシュレス中国、現金NGに“待った”!レジに現金、スマホにe-CNY——中国の「二刀流」決済の背景
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2026-01-13

キャッシュレス中国、現金NGに“待った”!レジに現金、スマホにe-CNY——中国の「二刀流」決済の背景

中国ビジネス

モバイル決済普及率が9割近くに達する中国で、2026年2月より「現金受取拒否」を厳格に禁じる新規定が施行される。なぜデジタル化の旗手は、国家主導で現金を保護するのか。背景には3億人を超えた高齢者層のデジタル格差と、通貨主権を守る国家の強い意志がある。本稿では、新規定の核心と、利子が付く「デジタル人民元2.0」との関係を読み解き、日本への教訓を探る。

1 「現金お断り」は違法に——国家が下すデジタル化への「待った」

2026年2月1日、中国で《人民元現金収付およびサービス規定》が施行される。これは、国内のあらゆる事業者に対し、「法令で非現金決済が義務付けられている場合を除き、現金の受け取りを拒否してはならない」と定めた、強力な法的拘束力を持つ規制である。

これまで曖昧だった無人店舗や自動販売機、交通ICカード「一卡通」で管理される施設なども例外ではない。新規定は、現金での支払い方法やチャージ手段を「目立つ場所」に明示するよう義務付けた。現金払いを理由に不利な扱いをしたり、手数料を上乗せしたりすることも固く禁じられる。

中国人民銀行がここまで踏み込むのは、一部で横行していた「現金忌避」が、人民元という法定通貨の地位そのものを揺るがしかねないとの危機感の表れだ。消費者が持つべき「支払い方法の選択権」を、国家が改めて保障する姿勢を明確にしたのである。

2 3億人超の高齢者を取り残さないために

中国が「現金の復権」へと舵を切る最大の理由は、深刻化する人口高齢化にある。2025年1月17日に発表された国家統計局の最新データによれば、中国の60歳以上の人口は2024年末時点で3億1,031万人に達し、総人口の22.0%を占めた。2035年頃には4億人を突破すると予測されており、デジタル社会から取り残される人々への対策は待ったなしの課題となっている。

若者には空気のように自然なスマートフォン決済も、高齢者や障がいを持つ人々にとっては複雑な操作と受け取られ、それが社会参加への障壁となる。今回の現金保護政策は、単に「現金が使える」だけでなく、銀行窓口の維持やモバイルアプリの高齢者向け簡素化(適老化)といった、「使いやすい」環境の整備を求めるものだ。デジタル化の恩恵を誰もが享受できる「社会的包摂」の実現が、社会の安定を維持する上での至上命題となっている。

3 日中「決済パラドックス」:デジタル化の目標も様変わり

ここで日本と中国の状況を比較すると、興味深い「決済のパラドックス」が浮かび上がる。日本は長年「現金大国」とされてきたが、経済産業省の発表では2024年のキャッシュレス決済比率は42.8%に達し、政府が掲げた「2025年までに4割」の目標を前倒しで達成した。今や日本は「2030年までに65%、将来的には80%」という新たな高みを目指し、デジタルへの移行を加速させている段階にある。

一方、モバイル決済普及率が86%に達する中国は、デジタル化を急ぐあまり、ATM網の縮小や釣銭不足といった現金の供給インフラが脆弱化する副作用に直面した。今回の現金保護政策は、行き過ぎたデジタル化の軌道を修正し、「デジタルと現金の共存」へと揺り戻す動きといえる。災害時のセーフティネットとして現金の重要性が見直される日本にとって、中国の先行事例は、「効率性」と「公共性」のバランスをいかに取るかという重い問いを投げかけている。

4 「デジタル人民元2.0」との共存——利息付きCBDCの狙い

今後の中国の決済市場は、「モバイル決済」「現金」、そして中央銀行デジタル通貨(CBDC)である「デジタル人民元(e-CNY)」の三本柱で構成されることになる。特に注目すべきは、デジタル人民元の進化だ。

2026年1月1日から、デジタル人民元は世界で初めて利子が付くCBDCへと生まれ変わる。これは、単なる「現金のデジタル版」から、銀行預金に近い性格を持つ「デジタル預金」への転換を意味する。スマートフォンを持たない人々でもICカード型のハードウェアウォレットで利用でき、オフライン決済も可能なデジタル人民元は、現金保護政策を補完し、金融包摂を推進する切り札となり得る。現金回帰というアナログな政策と、利子付きCBDCという最先端のデジタル政策を同時に進めることで、中国はあらゆる層をカバーする多層的な決済システムを構築しようとしているのだ。

◆ 結論:多様性が支えるデジタル社会の品格

一見、時代に逆行するように見える中国の現金保護政策は、その本質において「誰一人取り残さない」という現代社会の理念を再確認する動きである。デジタル化の最終目標は、現金の完全な消滅ではない。日本でもキャッシュレス化の陰で戸惑う人々がいる今、中国の選択は、技術の効率性と社会の包摂性という二つの価値をいかに両立させるかという、未来への重要な問いを提起している。多様な決済手段が共存し、誰もが安心して暮らせる社会こそ、成熟したデジタル社会が持つべき「品格」と言えそうだ。(編集:耕雲)

参考情報

  • [1] 新浪財経「人民币现金收付新规!2月1日起实施」2026年1月12日

  • [2] 中華人民共和国国家統計局「王萍萍:人口总量降幅收窄 人口素质持续提升」2025年1月17日

  • [3] ロイター「アングル:中国、高齢者市場に活路」2025年8月29日

  • [4] 中華人民共和国国務院新聞弁公室「中国のモバイル決済普及率、86%で世界トップ」2024年1月4日

  • [5] 経済産業省「2024年のキャッシュレス決済比率を算出しました」2025年3月31日

  • [6] ロイター「中国のデジタル人民元、26年から利子付きに」2025年12月29日

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